書評: マーケティングを学ぶ (ちくま新書) (新書)

2010年2月20日土曜日

マーケティングを学ぶ (ちくま新書) (新書)



マーケティングの入門書として良書である。
マーケティング・マネジメントの定義として「企業が市場(生活者ならびに競争者)に向けて行うさまざまな活動、それらを総称してマーケティングと呼び、それらを統一した活動としてマネジすること
」としている。また、作ったものを売るのはセリング、売れるものをつくるのがマーケティングともいっており、さらに、マーケティング・マネジメントの概念として、生活者(消費者)志向、マーケティング諸活動の統合的管理、全社活動のマーケティング志向の下での統合を述べている。

第1部
 STPとはセグメンテーション、ポジショニング、ターゲットの3つで鍵となる考え方である。
この本の中ではさまざまなケースが述べられている。青芳製作所(スプーン)、アート引越しセンター、スカンジナビア航空、パナソニック(レッツノート)、伊藤園(緑茶)であるが、その中でスカンジナビア航空の例と伊藤園の例が参考になったので取り上げる。
■スカンジナビア航空~顧客満足を高め、競争に打ち勝つ~
 この中でCEOであるヤン・カールソンは「顧客を絞って価値を知る」という方針から顧客を「ビジネス旅客」に定めた。その中で、お客様に重要なサービスを定刻に到着することだと見定め「時間厳守キャンペーン」を行った。乗り継ぎ便が遅れても待たない。何かの事情で乗務員が遅れてもまたない。機内食の準備が戸となわなくても出発する。コンソリデーション(座席利用率が50%以下の場合、そのフライトを決行して、次の便に乗ってもらう制度)を廃止するなどである。
【学びたいこと】
 顧客層を細分化し(セグメンテーション)、自分が向き合う相手となる層を定め(ターゲティング)、その顧客にとって価値あるサービス提供を打ち出し、それぞれの業界で差別化された地位を獲得したことである。(ポジショニング)
 
■伊藤園
 伊藤園の例で学ぶことは「飲料化比率のコンセプトとセオリー」をつくり、緑茶市場の成長を信じたことである。飲料化比率とは緑茶全消費量のうち缶やペットボトルなどで消費される量の構成比である。この飲料化比率を緑茶、ウーロン茶、紅茶、コーヒーの4種類の飲み物がそれぞれどの程度飲まれているのかを比較し、市場の拡大を信じたのである。
【学びたいこと】
 切り口(ポジショニング)先行で進むことで、緑茶飲料の長期的な市場戦略を見据えた事業のマネジメントが可能となったことである。
第2部
 市場適応の組織レベルとして、コーポレート、製品市場分野、商品ブランドの3つを述べている。花王でいうと花王がコーポレートブランドでありその下にはヘアケア、ボディケア、ビューティーケアなどの製品市場分野があり、その商品市場分野のしたにメリットやアジエンスなどの商品ブランドがそろう。
 この第2部では、ブランドを軸にした成長の対応方を述べている。ポジショニングによる成長とブランドの拡張による成長である。
■コーポレートブランドのマーケティングモデル
 コーポレートブランドのマーケティングモデルとして3つの特徴を述べている。
 ①メーカーは、チャンネルを維持するため広い製品ラインを持った。
 ②統制の利いたチャンネルをつくりあげたメーカーはそのチャンネルを養う義務がある。そのため新製品開発やモデルチェンジがチャンネル維持のため不可欠の施策としてマーケティングの中に埋め込まれている。
 ③商品ブランドより、コーポレートブランドの構築維持に注力する。メーカーのマーケティングの焦点は、流通チャンネルの協力を得ながら生活者に迫るやり方、つまり「プッシュマーケティング」を行う。
 
 コーポレートブランド戦略体制とは、チャンネルがあってこそのコーポレートブランドである。
  ①広い生産ラインと多数の製品ブランドの保有
  ②新製品導入サイクルの短縮化
  ③コーポレートブランドのアピール
■商品ブランド戦略
 コーポレートブランドと商品ブランドの違いを以下に示す。チャンネルという顧客視点を持たないメーカーは個々の商品ブランドを媒体とした生活者との関係作りに注力する。商品ブランドを持った企業は過度に新製品開発にこだわる必要はない。財産はブランド(商品名)であるので、それを壊さないことに注意しないといけない。
 「コーポレートブランド戦略」         ⇔ 「商品ブランド戦略」
 ・チャンネルを通じての顧客関係の構築 ⇔ ・商品ブランドを通じての顧客関係の構築
 ・広い製品ラインと多数のブランド  ⇔ ・選択と集中メガブランドづくり
 ・新製品の開発に注力  ⇔ ・顧客関係の維持に注力
 ・コーポレートブランドの拡張  ⇔ ・ポジショニング
■製品分野別に経営する。
 サッポロのドラフトワンの例で、製品分野の経営の難しさを述べている。
 サッポロは第3のビール市場を新たに創造したが、アサヒとキリンがこの市場に参入してきたことに対抗するために「スリムス」を導入した。その事情は、小売店の陳列棚から商品を撤去されたり、スペースを小さくされる棚落ちを防ぐためである。しかし、製品分野の市場地位を守りたいと考えたため、せっかくトップブランドとなった「ドラフトワン」の投資をしなかった。
【学びたいこと】
 どのタイミングで新ブランドを導入するかどうかの実際の判断は大変難しい。戦略立案者にとって怖いのは、「この道しかない」という視覚狭窄に陥ることでえある。

■ポジショニングを通じてブランドエクイティを確立する
 P&Gのファブリーズの例が紹介されている。日本では室内用消臭製品としては置き型が一般的であり、スプレーをかけるという習慣は馴染みのないものだったため、ライバル企業はP&Gに対し、どうして参入するのかといぶかしんだ。
一方、P&Gのブランドチームは大胆なマーケティング予算の投入を行った。周辺市場の獲得を視野に入れた措置だと考えられる。その考え方をまとめると。
 ①布の匂いを消すという分野でゆるぎない地位を獲得した。
 ②このニッチ市場の周辺には「室内消臭剤」と「室内芳香剤」というそれぞれが1000億円以上の規模を持つ、2つの大きな市場へ、ブランド拡張により進出した。
【学びたいこと】
 「ポジショニング」「コマーシャルイノベーション」「ブランドエクイティ」の3つ
 まず、生活者の頭の中に「布用消臭といえば、ファブリーズ」という評判を獲得した。すなわち「ポジショニング」を獲得したのであった。
 次に顧客との接点、コミュニケーションを「布のにおいをとる」から「部屋のにおいをとる」に変化させ、近隣市場に進出したのであった。コマーシャルイノベーションである。
 これらの結果、ブランドエクイティを市場の中に確固としたものとして構築
したといえるだとう。
今回の例はブランド拡張の成長例として述べてあったが、ルックJTBの例は、ブランド拡張の失敗例として述べてあった。
 ルックJTBは、第2ブランドとしてパレット、第3ブランドとしてナヴィというブランド体系を持っていた。そこで、JTBは、高級ツアーはルックJTBロイヤル、基幹商品はルックJTBレギュラー、廉価版はルックJTBスリムとルックのブランド拡張を行った。しかし、当初スリムのシェアを20%としていたが、結果35%のシェアにも達した。その結果、ルックJTBのブランド自体の価値が衰微しているといわれるようになった。このケースからブランド拡張に関するいくつかの課題が潜んでいることがわかる。
 ①市場においてそのポジションを安定して持続させることは難しい
 ②ブランド拡張にはコストとリスクが潜んでいること
 ③拡張した先の分野でその分野のメガブランドと競合することになる可能性が少なくないことである。
■ポジショニングの契機
 ①ある特定市場カテゴリとブランドの絆を強化する、すなわちポジショニングがブランドの長期存続にとって最重要課題である。
 ②ポジショニング活動を支えるマネジメント体制としてブランドマネージャー制があることである。
■ブランドエクイティ
 ブランドエクイティの定義
 ①生活者がこのブランドでなければならないというロイヤルティを持っているかどうか
 ②そのブランドから高い品質がイメージされるかどうか
 ③ブランドから質のよい連想が生まれているかどうか
ブランドエクイティの成長プラグラム
 ブランドにかかわる生活者市場を細分化して、それぞれの細分市場にアプローチする方法はブランドチームの定番の方法
■ブランドエクイティに基づいて企業を経営する
  ターゲットに向けて焦点の合った活動をとることが大切。ターゲットを絞り、ターゲットにとっての価値を闡明にし、その価値を提供できるよう徹底して業務プロセスを改革し、あるいはその価値に合わせて製品/価格/販売促進/流通ルートを統合する。
■ブランドの機能
 ①他との違いを識別すること
 ②信用供与
 ③ブランドが生み出す連想
■ブランドパワーを構成する要素
 ①再認率・・・生活者がそのブランドの名前を聞いて思い出せるかどうか
 ②再生率・・・競合ブランドの中で一番に思い出してもらえるかどうか
 ③情緒度
 ④購入意図
 ⑤満足度
創造的適応・・・自らの状況を創りつつ、その状況に適応する。
 
 

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